京職人のよもやま話 11月号

2017-10-25

今回は昨年より執筆しておりました「月刊仏事」11月号の原稿を掲載します。
「京職人のよもやま話」というタイトルで1年間書かせていただきました。

ではお時間ありましたらお読みください。

「朝、晩、寒なりましたなぁ~」
こんな挨拶が聞こえてくると京都の街は一気に紅葉シーズンに入ります。私のお勧めスポットは京都市東山区にある臨済宗大本山「東福寺」です。境内に咲き誇る二千本の楓は赤、橙、黄、緑と染まり特に「通天橋」から見下ろす景色は絶景で一度は見ておきたい場所だと思います。是非、秋の京都へお越しください。

 皆様、はじめまして。倉橋漆芸彩色工房の倉橋宏明と申します。今回より1年間隔月で連載させていただく事になりました。本号では自己紹介を兼ねた仕事への思いを語らせて頂きます。今後とも宜しくお願い申し上げます。
私は家業に就く気はありませんでした。当時若かったせいか古いことを手仕事でやっている家業に魅力を感じませんでした。大学卒業後、家業とは真逆である最先端の半導体メーカーに就職しました。科学技術が毎日進み新しいのもが次々と開発され今までの物が消えていく。何気ない虚しさの中やはり自分は後世に残る仕事にあこがれを持っていたのかもしれません。意を決し四代目塗師である父に弟子入りしました。
我が工房では主に仏像から装飾品まで様々な仏具を製作し数々の寺院に納入されています。中でも常花(木製の蓮華)に関しては京都で一番の実績を積み下地から漆塗り・彩色まで幅広く手掛ける京都でも数少ない工房です。仏像仏具の製造は伝統工芸です。現在京都では様々な分野で伝統工芸の後継者が少なくなってきています。だからこそ残さないといけない物があります。そのためには皆様に知っていただくことが第一歩だと思っています。
倉橋工房のこだわりは伝統に従うことです。昔から伝わる方法で製作することには意味があります。それは歴史があるからです。何十年、何百年と受け継がれてきた方法には木地を守る工夫がたくさん施されています。木地が痛まなければ何度もご修復が可能です。我が工房では年間いくつもの仏像仏具をご修復させて頂きそのノウハウがあります。
伝統技法に従うことでまた次の世代に廃棄することなくご修復ができます。また、新たに蘇るということです。物を捨てないという事は究極のエコロジーだと考えています。
そのためには、材料を厳選しています。後にご修復できないかもしれない化学塗料は使用していません。木材・胡粉・砥の粉・膠・漆・金粉などすべて天然に存在しているものです。それぞれにおいて最高レベルものを使用しています。結果として、他に比べて、品質の高い製品となるため末永く使用することが出来ます。完成後の作品への情熱と信頼は高くなりお客様にも満足頂いています。
今日も新品、修復、いつもと変わらず信念と情熱を持って一歩ずつ製作しています。次回は漆の裏話を書きたいと思います。お楽しみに。